黄昏バラッド


「どうしたの?なんか不機嫌?」

ムッとしている私に気づいて、サクは心配そうに私を見ている。


……なんで私が不機嫌になってるんだろ。こんなはずじゃなかったのにな。

でもやっぱりこうして見るとサクは27歳には見えない。可愛い顔してるし、サクから年齢を言われてたとしても信じなかったかもしれない。


「それならもうひとつ。……私、サンセットってところで働いてもいい?」


そう言った瞬間、あ……って思った。だってサクの顔色が明らかに変わったから。

本名や年齢は知られてもいいけど、触れられたくないサクの部分。私は今少しだけ触ってしまった気がした。


「……いいんじゃない?別に俺に許可を取らなくてもいいよ」


サクってなんて分かりやすいんだろう。

さっきまで普通だったのに、急に私の目を見なくなった。


「……わかった。働かない」

私には守りたいものも、大切なものもないけど。サクの嫌がることだけは絶対にしたくないって強い気持ちだけはある。

私がここにいられることもご飯が食べられるのも全部サクのおかげだから。

大袈裟に言えばサクは私の命の恩人だから。


「……え、いや、だから別にいいよ?ノラは自分がやりたいことをやりなよ」

また急に優しくなるし。さっきはちょっと冷たい言い方をしたくせに。


べつにやりたいわけじゃない。

ただせっかく誘ってもらったし、サクに甘えて生きるのがイヤだっただけ。

バイトなら他にも探せば見つかるかもしれないし、私が働くとか鉄さんと一緒だからとか、そんな理由でサクが動揺したんじゃないって分かってる。


「……サンセットって店になにかあるの?」
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