黄昏バラッド


サクの過去を探りたいわけじゃない。

でもサクが引っ掛かってるのは絶対鉄さんのお店。


――『……俺まだあそこで働いてるんだ。暇ができたら顔ぐらい出せよ』

だってあの時と同じ顔をしたから。


「……働いていいよ。本当にノラのやりたいようにやりな」

サクってずるいよね。

今自分がどんな顔してるか分かってる?


聞きたいことは聞いてもいいって言ったくせに核心的なことは教えてくれないし、急にサクじゃなくて〝亮〟になったりする。


――咲嶋 亮。

きっとサクも私と同じようにリセットしたんでしょ?

今はサクとして生きてるんでしょ?

だったら私が亮の領域に踏み込むことはできないよ。      

「……今日は歌いに行かないの?」

私は体育座りをしながら話を変えた。


「行かないよ。毎日行ってるわけじゃないから」


サクはそのあと普通に戻ったけど、大好きなギターには一度も触れなかった。


ねえサク、歌は?

サクの歌はだれのもの?

あの歌声やメロディーはサクが奏でてるの?

それとも咲嶋亮?

だって私気づいちゃったよ。


サクの歌が私に響いたのはとても素敵で綺麗だったから。

それで切なくて、悲しくて、苦しかったから涙がでた。

それぐらいサクのメロディーは悲しいものばかりだって、気づいちゃったよ、バカ。
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