黄昏バラッド

***


次の日、私は昨日貰った名刺を取りだして、そこに書いてある番号に電話することにした。

べつに約束してたわけじゃないけど、一応連絡しなきゃ。サンセットでは働けないって。

サクはいいって言ったけど、やっぱりダメ。

だって私が働くことで、嫌な記憶を思い出させたくないから。


私は残りの所持金を持って、近くの公衆電話を探した。

こういう時、スマホがないことに不便を感じる。


『はい。サンセット新かさい店です』

やっと電話を見つけてかけると男の人が出た。


『……あの、昨日名刺貰ったんですけど……』

私がそう言うと、電話の主は急に声色を変えた。


『おー、ノラちゃん?俺だよ。鉄』

電話に出たのは偶然にも鉄さんだったようだ


『電話待ってたよー。今暇だから丁度良かった』


……言わなきゃ。

せっかく誘ってもらえたけど。


『あの鉄さん……。私その、鉄さんのお店では働けません』

私は電話の受話器を強く握りしめた。


『あー。もしかして亮のこと?』

『……え?』

鉄さんは驚かず、むしろ初めから分かってたみたいな口調だった。私のほうが逆に動揺してしまって、切れそうな電話に慌てて10円を追加する。


『ってかノラちゃん今どこにいるの?』

『……え、どこって……。昨日のコンビニの近くの公衆電話ですけど』

『あーはいはい。あそこね。ちょっとそこで待ってて。迎えに行くから』


……へ?

私の返答を待たずに電話はすでに切れていた。

耳元で虚しく響くプープーという保留音。


迎えに行くってなに?

私は断ったんだからこれで終わりじゃないの?


色々と考えたけど、とりあえず私は言われたとおり鉄さんを待つことにした。

だって断った上にここで帰ったらさすがに失礼だと思って。一応、サクの知り合いだし。

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