黄昏バラッド
「なにか歌ってあげようか?」
少しだけその言葉に反応してしまった。
確かにあの綺麗な声には魅力がある。こんな私でも分かるくらい。
「……って、また悲しい気持ちにさせちゃうかな」
そう言ってギターをまた肩にかけ直した。
――違う。あの時泣いた理由は別に悲しくなったからじゃない。
ううん、半分は悔しさ。もう半分は歌に感動したからだよ。……こんなこと言えるわけないけど。
「ねえ、立ってみて」
突然私は腕を掴まれた。
戸惑っている私にその人は「いいから早く」と急かす。私はわけも分からず立ち上がった。
やっと不機嫌そうに顔を上げてると、そこには見上げるくらいの身長差があって男の人は女の子みたいに可愛い顔をしていた。
「ちょっと待ってね。あと10秒くらいかな」
何故か時計を気にしながら、まだ私の腕を掴んでいる。
……長くて綺麗な指。まるで壊れものに触れるかのように優しく掴むから普通なら払いのけるところだけど、10秒だけ待ってみようと思った。
それに右目尻にある泣きぼくろがなんだか可愛くて少しみとれてしまいそうになった。