黄昏バラッド


鉄さんはその言葉を待ってたかのようにニヤリと笑った。


「じゃあ、いいじゃん!決定ね?ノラちゃんは今日からうちの従業員」

コロッと変わった態度に私は余計に不機嫌になった。

鉄さんっていい人だけど、少し強引かも。だからちゃんと言わなきゃ。私の気持ちを……。


「……私がイヤなんです。サクが悲しい顔をする場所では働けません」

失礼なことを言ってるって分かってる。
でも、本当のことだから。


サクは私のものじゃないし、私もサクのものじゃない。だけど、サクは私の恩人で一番近い人だから。

サクが嫌がることは絶対にしたくないの。


「悲しいのはこっちだっつーの」

鉄さんは乱暴にタバコを吸殻に押し付けた。その顔はなにかを思い出して少し苛立ってるように見える。


「ノラちゃん、そこの写真見てみ?」

……写真?

鉄さんは左側の壁にあるコルクボードを指さした。

そこには無造作に貼られたたくさんの写真。みんな楽しそうで、みんな知らない人ばかり。


「分からない?」

鉄さんの意味深な言葉に、私はもう一度写真をよく見た。

「あ……」

思わず声が出てしまった。

見つけたのは大勢の人に囲まれてるサクの姿。
しかもそれは一枚じゃなくて何枚も。
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