黄昏バラッド


「亮、ぜんぜん違うでしょ?」

鉄さんの寂しそうな声が聞こえた。


サクだ。これは間違いなくサク。

顔は少し幼くて若い時の写真だけど、私はサクがいるって気づかなかった。だってサクの笑顔が違う。

こんな楽しそうにサクは笑うの?


「それ5年前の写真。このサンセットがまだライブハウスだけだった時に撮ったやつ」

……本当だ。内装は変わってるけど、装飾品だったり壁の色は変わってない。


「俺とあいつバンド仲間だったんだよ。他に写ってる奴らはここに通ってた常連客」

サクと鉄さんがバンド仲間?バンドって鉄さんも音楽をやってたってこと?

サクと鉄さんがどういう関係か分からないけど、この写真を見るとかなり親しかったんだって分かる。だっていつも隣同士で写ってるから。


「それなのに、あいつは音楽を辞めちまった。亮は天才だよ。だれがなんと言おうと」

ちょっとだけ泣きそうになった。


私もそう思う。

サクは天才だよ。だれがなんと言おうとね。

自分と同じ気持ちの人がいるんだって思ったら少しだけ嬉しかった。だけど同時に引っ掛かる。


――音楽をやめた?

サクは歌ってるよ。

今もこの瞬間も多分、新しいメロディーが生まれてる。
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