黄昏バラッド

:ファン1号



「……あれ?」

アパートに着いてポストを開けると鍵が入っていない。家を出ていく時はちゃんと入れたはずなのに。

もしかして無くした……?でもポストに入れた記憶はあるし……その時、ガチャリと家のドアが開いた。


「おかえり、ノラ」

中から出てきたのはもちろんサク。


「……わ、ビックリした。なんでいるの?」

思わずそんな言葉が出てしまった。

だって、いつもこの時間はまだ仕事のはずなのに。


「いるよ?俺の家だもん。今日は仕事早く終わったんだ」

なんか今日は機嫌がよさそう。でもサンセットのことを言ったらまた不機嫌になっちゃうかも。


「なにブツブツ言ってるの?早く中に入りな?」

あまり意識したことないけど、こうやって誰かに迎えられるのは嬉しい。

いつまで私はここにいていいのかな?

いたいだけいればいいってサクは言ってくれたけど、それは〝ずっと〟じゃない。


「ねえ、見て見て」

サクがなぜか嬉しそうにテーブルに置いてある箱を指さした。


「……なに?」

開けてと言うサクの視線を感じて、私は箱を開けてみた。

そこには大きなホールのショートケーキ。赤いイチゴがたくさん乗っていて、生クリームの甘い匂いがする。


「これどうしたの……?」

今日はだれかの誕生日?


「今日店で注文ミスのケーキがでたんだ。一個でいいのに間違って二個作っちゃったらしいよ」

たしかにチョコレートのプレートには【誕生日おめでとう ちひろちゃん】と書いてある。


「へへ、妹が誕生日なんですって貰ってきちゃった」

本当に嬉しそう。ってか妹って私?
< 76 / 270 >

この作品をシェア

pagetop