黄昏バラッド


それともうひとつ嬉しいこと。それは……。


「最近冷えてきたから俺のパーカー着ていいよ」

今日は公園に歌いに行くらしい。サクはギターを持ってもう外で待っている。

「ちょっと待って!」

私は急いで支度をすると、勢いでギターのスタンドを倒してしまった。

「あっ……」

すぐに反応したけどそれは遅く、スタンドはサクの楽譜の山に倒れてしまった。

やばっ…破けたりしてないよね?


私はそーっとスタンドを戻して散乱した楽譜に手を伸ばした。サクにバレないように元に戻そうとした時。

楽譜の海の中に一際目立つものが。


「なんだろこれ……」

たくさんの楽譜に埋もれていたのは真っ黒な紙。

いや、違う。これも……楽譜?

よく見ると音符や歌詞が見えるけど、黒く塗りつぶされていて読むことはできなかった。


「ノラー?行くよー?」

サクが呼んでる。

私は急いで楽譜を元に戻して、黒い楽譜も見えない場所に置いた。


……あの楽譜はなんだったんだろう。

あそこにあるってことはサクが書いたものだよね?

でも、歌の好きなサクが楽譜を塗りつぶすなんて……。しかも自分で作った曲を。気になったけれど、それをサクに聞くことはできなかった。
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