黄昏バラッド



たぶん、それが一番聞きたかったことなんじゃないかって、食器を洗いながら思った。


「……よかったねって言ってくれました」

嘘はついてない。これは本当のことだ。

でも鉄さんのことだったり、サンセットのことはなにも言ってない。

だから鉄さんが期待するようなことはなにも……。


「へえ、あいつは感情隠すのが上手いからな」


ガチャンッ。

思わず手から食器が滑り落ちた。

「おいおい、大丈夫?割れて……」と慌てて駆け寄ってくる鉄さんを私は強く睨んだ。


「なんでそんな言い方するんですか?サクのことそんな風に言わないで下さい」


サクがどんな気持ちでよかったねって言ったか分からないけど、そう言ったのは事実なんだからそれでいいじゃん。


「ごめん、そんなに怒るなって。これあげるから」

鉄さんは私をなだめながら私のエプロンのポケットになにかを入れた。

手が濡れてるし、食器を洗ってるから見れないんだけど……。


「今なにを入れたんですか?」

「歌の国の入場券」

は?なにそれ。


「ここ夜はライブハウスやってるって言っただろ。その入場券」


そうだ。ここって歌を歌う場所になるんだよね。でもどうやって?今は普通のカフェにしか見えないし……。


「言っとくけど、うちのライブハウス人気があって入れない人多いんだからな?」


……ライブハウスか。

行ったことはないけど興味はある、かも。

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