黄昏バラッド



それを聞いた瞬間、鉄さんは急に不機嫌になった。

もうそれは露骨すぎるってぐらい、眉間にシワを寄せている。


……え、私なんかヘンなこと言った?


「あとひとりいたよ。ドラムがね。名前はムカつくから忘れた」

「………」


すごく気になるけど、これ以上聞いたら怒られそう。

とにかくサクは鉄さんとドラムの人と3人でバンドをやってたってことか。


サクのことを知りたくてサンセットで働くことを決めたわけじゃないけど、なんだかサクを知る度にもっと知りたいって思っちゃう。

私はなにひとつサクに話してないのにずるいよね。



「あの、その……バンド名はなんだったんですか?」


もう聞かないから、これだけは最後に聞いちゃダメかな?


鉄さんはすぐに答えようとしない。

やっぱり聞いちゃダメだったのかも。


鉄さんパソコンを触る手を止めて、クルッと私のほうを向いてニヤリと笑った。


「Twilight」

〝トワイライト〟


「亮が付けたんだよ。これだけは俺も気に入ってんだ」


サクが付けたバンド名。

Twilight――トワイライト。


「……それってどういう意味なんですか?」


音楽が好きで歌を歌うサクが付けた名前の意味は……。


「黄昏。日が沈む直前って意味」

「たそがれ……?」

「亮が歌は一日の始まりじゃなくて、一日の終わりに聞いて欲しいからって」


それを聞いて私はサクらしいと思った。

サクは今鉄さんと離れてバンドはやってないけど、サクが歌うのはいつだって黄昏時の公園だから。


――トワイライト。

その名前の意味はきっとまだサクの中で消えていない。

< 87 / 270 >

この作品をシェア

pagetop