黄昏バラッド
「なに言ってんの。こんな薄着で外に出たら風邪引くよ。ほら」
サクはそう言って自分の巻いていた黒いマフラーを私の首に巻いた。
サクは怒ったり呆れたりせずいつもどおり。
私はまだこんなにモヤモヤしてるのに。
「家に帰ろう?カレーが冷めちゃうよ」
サクが私の腕を掴んだけど、私は動かなかった。
「……ちゃんと言ってよ。サクも私に言いたいことがあるでしょ?」
優しさなんていらない。
私が聞きたいのはサクの本心だよ。
「たしかにノラは友達でもないし彼女でもないよ。俺にとってノラはなに?って聞かれても分からない」
「………」
「でも他人じゃない。そんな寂しいこと言わないでよ」
サクはとても悲しい顔をした。
こんなに悲しい顔をさせてしまった。
だから私は逆にサクの腕を掴んだ。私とは違ってとても暖かい体温。
「分かった、帰る。私もあそこが家だから」
結局なにひとつ私の疑問は解決しなかったし、
サクの本音も聞けなかった。
でもひとつだけ分かったのは……。
サクには私が必要で、
私にはサクが必要ってこと。
家族でも恋人でも友達でもないけど。
名前がない関係があってもいいでしょ?
「ねえ、サク……」
「んー?」
大通りを歩きながら、私はライトに照らされたサクの影を見つめた。
「私はサクの味方だからね。なにがあっても」
なんとなく今言いたかった。
もしかしたら、これが私たちの関係の答えなのかもしれない。
「俺もノラの味方だよ。なにがあっても」
サクにならいつか話してもいいよ。
だからサクもいつか話して。
私が絶対サクをひとりにしないから。