黄昏バラッド
「初めからそうしろよ。見つかったら面倒くせーんだから」
お客さんが入ってこないと分かった怪しい人は、被っていたキャップとサングラスを外した。
その瞬間、ザワザワとしはじめる従業員のみんな。
髪は薄い茶色で耳には高そうなダイヤのピアスがひとつ。私はその人の顔を見て息を飲んだ。
芸能人に興味はないし、テレビもあまり見ないけど知っている。
「それで?なんの用だよ?尚」
――尚(なお)
そうだこの人、人気バンドグループ【イーグル】のドラムの人だ。
「今度イーグルでシークレットライブやる予定なんだけど、ここ使わせてくれない?」
そう言って鉄さんに分厚い茶封筒を投げた。
「その金で貸しきらせてよ。日程とか時間はまだ決まってねーから後で連絡するからよ」
【イーグル】はいつも新曲を出せばTOP10には入る人気グループ。
歌番組にもいつも出てるし、知らない人はいないぐらい有名人。私もテレビで何度も見たことがあるし、曲だって聞いたことあるけど……。
この尚って人の態度は正直むかつく。