【完】運命は罠と共に
「どこから話そうか。まずさ、俺が金本さんに初めて会ったのいつか覚えてる?」


そんなの決まってるじゃん。



「田中さんが骨折して、入院したときですよね?」


え?違うの?


それ以前に田中さんに会った記憶なんてない。



「本当はもう少し前に会ってるよ。中尾清人って覚えてないかな?」



「中尾さん!覚えてますよ。何年か前に、えーと、腰だったかな?骨折で入院してた方ですよね。あれ?でも何で?」



中尾さんはよーく覚えている。まだまだ下っ端だった頃に担当していた患者さん。



「中尾清人は俺の祖父。あの時さ、俺も家族として金本さんと1度だけど話したけど……さすがに覚えてるわけないか」



そうだったんだ知らなかった。


田中さんはさらに続けた。



「普段はきびきびと動いて、近寄りがたい雰囲気出してるのにさ、患者さんと話してるときは本当に楽しそうにしてて、そのギャップっていうのかな。それがすごい印象てきだったんだよな。そして、今回の入院だろ。あの病院に運んでもらえるように俺が頼んだんだよ。金本さんにまた会えるかもって思って。そうしたら主治看だろ、ラッキーって思ったよ」





「……へ?」


田中さんが私を見てくれていたの?


信じられない。




「久々に会ってもあの頃のまま、楽しそうに仕事しているし、なんならさらに綺麗になってるし。それで、抑えられなくてついキスしちゃったんだよなー」



キスされたときのことを思い出して、また恥ずかしくなった。


田中さんの顔を直視できずに、さっきから視線がさ迷ってしまっている。




「あー、もうそんな可愛い反応しないでくれる?ちゃんと話できなくなるから?」


ん?どういう意味だろう。


キョトンと首を傾けた。




「だからー。まぁいいや、続けるからな?」


そう言ってまた話し始めた。
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