私を壊して そしてキスして

それから少しの間、何も言わずに抱き寄せていてくれる。

目を閉じると浮かんでしまう靖司と愛希の姿も、この時は少しだけ忘れられた。



「そろそろ、行くかな」


左手の腕時計をチラッと見た彼。
きっとアポイントがあるに違いない。


「できるだけ、早く帰ってくる」

「――はい」

「少し、休め」


私をベッドに誘導して、半ば無理矢理寝かせると、頭をクシャッと撫でる。


「菜那、大丈夫だ」


彼が大丈夫だって言ってくれると、本当に大丈夫なんじゃないかと思える。



「掃除してくれたんだな。ありがとう」

そう言いながら、優しい笑顔を残して、出て行った。



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