私を壊して そしてキスして
翔梧さんが、すっと席を外したのは、母と二人にしてくれたに違いない。
「菜那、これね」
母がおもむろに、鞄から何かを取り出した。
「お母さん、これ……」
「本当は、結婚の時に持たせようと思っていたんだけど、今使うべきだと思って」
それは、私の名の記された、預金通帳。
「今は無理して仕事をしないで、体を休めて。
長い人生だもの、何年か休んだってどうってことないわ。
柳瀬さんばかりにお世話になって。
彼に出してもらってるんでしょ?」
「――うん」
「お母さんにも、何かさせて欲しいの。
とても柳瀬さんには追いつかないけど、それでも少しでもね」
母が私に差し出した預金通帳には、驚くほどの金額が記されている。