私を壊して そしてキスして

「すまない」


彼がハッと我に返って、私から手を放す。
そして、明らかに狼狽した様子で、私を見つめた。


「愛希を、お願いします」

「違う、俺は、菜那が――菜那が好きなんだ。
菜那を失って俺……菜那のことがどれだけ大切な存在だったのかよく分かったんだ」


私の肩に手を置いて、懇願するかのような彼。
けれど、私は首を小さく横に振った。


「ごめんなさい。もう、無理です。
それと、あの人は関係ありません。私を助けてくれただけです」


私の事は、もういい。
だけど、翔梧さんの名誉は守りたい。

恵美さんに出会ったとき、私をかばってくれた彼を思い出した。



< 130 / 372 >

この作品をシェア

pagetop