私を壊して そしてキスして

一緒にテーブルについてご飯をよそうと、「いただきます」と丁寧に手を合わせた彼が、エビチリに手をつける。


「旨いな、これ。エビがプリプリしてる」


それは母に教えてもらったエビチリだ。

下ごしらえにこつがある。
これを誉められると、母も誉められているようで嬉しい。


「ありがとうございます」

「仕事、見つかったのか?」

「いえ……なかなか難しくて」


きっと彼だって分かってる。就職難だということが。

最前線で働いているのだ。
景気の波は肌で感じているはずだ。


「本当は、菜那にずっとこうしててもらいたいって言うのは……」

「えっ?」

「きっと男のエゴなんだろうな」


驚いた。
彼がそんなことを……。




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