私を壊して そしてキスして
「いいね。なんだか懐かしい味だよ。
昔、おふくろがよく作ってくれたんだよな。
でも、菜那のやつの方がずっと美味い。
おふくろ、忙しくて、あんまり家事をする人じゃなかったから」
「そうなんですか?」
こうやって、彼の歴史を少しでも垣間見えるのがうれしい。
「菜那のお母さんは、料理名人だったもんな」
そういえば、母が料理持参で来てくれたこともあった。
「うちは専業主婦だったんです。
だから小さいころから愛希と一緒に……あっ」
愛希という名を出してしまったことに、自己嫌悪する。
せっかく彼が忘れさせようとしてくれているのに。
けれど……。
「そうなのか。だから料理がうまいんだな」
何事もなかったかのようにそう返してくれた彼は、大きな口で御飯を頬張った。