私を壊して そしてキスして

「だけど、菜那が焦る気持ちもわかるんだ。

上手く歩き出せないときは不安なものだ。
だから、その不安を忙しさで紛らわそうとするのも。

時間を持て余すと、お前は余計なことばかり考えて、余計に蝕まれている気がする。
それなら、仕事をしていた方が、いいのかもしれないと思ってな」


忙しさで紛らわせて……。

靖司とあんなことになってからも、仕事があったから何とか耐えられた気もする。


眠れなくて、食べられなくて――体はボロボロだったけれど、普通にしてなくちゃって気を張っていたから、大きく崩れずに済んだ。

あの頃仕事も失っていたら、きっと私は……。



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