私を壊して そしてキスして

「菜那、好きなもん言っとけ。酒でもなんでも」

「おっ、いける口?」

「いえ、呑めません! 私もコーヒーで」


ずっと緊張していたけれど、平井さんの様子に少し気持ちがほぐれる。


「おーい、コーヒー3つ」


ドアから顔を覗かせた彼は、そういったあと私たちを椅子に促した。



「ごめんね。これでも一応社長なんだけど、ここ、社長室兼会議室でね。
びっくりしたでしょ? こんな会社で」

「いえ」


本当は、少し驚いた。
今までだったら社長なんて顔も忘れてしまうくらい、年に数回しか見かけることはなかったし、こんな風に社長室に入ったこともない。

そして、社員との距離がとても近い。


だからといって決して嫌じゃない。
とてもアットホームな感じがして、なんだか新鮮だった。



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