私を壊して そしてキスして
「菜那? お前、泣いてないか?」
「――泣いてません」
けれど、頬に伝う透明の液体。
やっと、過去を忘れて、進める気がしていたのに。
そして、愛希と……たった一人の妹とこんな風になりたくなんかなかった。
「すぐ、帰る。待ってろ」
すぐにドタバタと音がして、翔梧さんの息遣いが聞こえてくる。
走っているんだ……。
「菜那、もう少しだけ待ってろよ?」
ずっと電話を切らないでおいてくれるのは、きっと彼の優しさだ。
どんどん彼の息遣いが激しくなって……。
「あっ……」
「どうした?」
「翔梧さん、ここ」
彼が私いる公園の前を、全速力で駆け抜けていくのが見えた。