私を壊して そしてキスして

翔梧さん……。

今朝、何食わぬ顔をして出社していった彼が、目の前にいる。
退職したという話も、聞いたことがない。


「といっても、まだ残務整理中で、前の会社に籍がある。
有給消化するなんて言ってたから、慌てて引っ張ってきたんだ。
楽なんてさせてやるか」


はぁ

大きくため息をついた翔梧さんが、もう一度私に視線を投げかけて、ニッコリとほほ笑んだ後、クルッと向きを変えて出ていこうとする。


「有給は、少しはもらうぞ? 彼女とデートしたいんでな。
ということで、俺は休憩中なの。残務整理に戻るから」



彼女とデート。

きっと私に聞こえるように、言ってくれたんだ。


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