私を壊して そしてキスして

「か、帰るぞ、菜那。また連れてくるから」


なんだか慌てて私の手を引いて家を出る彼。
こんなに動揺している彼を初めて見た気がする。


「えっ? 翔梧さん、待って……」

もっとお話ししたかったのに。


車に乗った彼は何だか不機嫌だった。

部屋にたどり着くと同時に、ギュッと抱き寄せられる。


「ヤバいな。着物姿の菜那も想像以上に綺麗だ」


そう言いながら、そっとキスをする。


「菜那、何言われなかったか? 家に入れとかなんとか」


そうか。彼が不機嫌な理由が分かった。
彼はお母さんの言っていたように、まだ自由でいたいんだ、きっと。


「ううん。お母さんは、今の翔梧さんが誇らしいって。
自由に飛び回ってほしいって」

「はっ?」


急に力が抜けたように、どさっとソファーに座り込む。


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