私を壊して そしてキスして
少し身動ぎすると、彼が長い睫毛を持ち上げる。
「菜那、起きたのか?」
「――はい」
こんなに穏やかな朝は、何時以来だろう。
毎日、朝日が昇るのが嫌で仕方なかった。
明るい、そして幸せな香坂菜那という仮面を被って、出勤しなければならないのが。
一歩自分の部屋を出るだけで、そこには自分の実態の欠片もなかった。
ただ心を凍らせて、何も感じないようにすることしかできなかった。
家族と一緒に食事をすることすら苦痛で仕方がなくて、愛希の顔を見るたびに吐き気に襲われる。
会社へ行けば結婚の話ばかりされて、いつしか休み時間をとることすら怖くなって、狂ったようにキーボードを叩きつけていることもあった。
でも、もう無理しなくていい。