私を壊して そしてキスして

「こいつとは昔、よく悪さをしたものさ。
よく二人ともげんこつ食らったな。
あ、次期家元の凌雅(りょうが)」


そんな翔梧さんの言葉を聞くと、着物をきちっと着こなした彼がニッと笑う。

すごく緊張していたというのに、なんだか拍子抜けして、私まで笑ってしまった。

この人が、翔梧さんが言っていた……。
小さいころに一緒に遊んでいたという、お弟子さんの息子さんだ。

ずっと会ってみたいと思っていた私は、翔梧さんの知らない一面を垣間見たような気持ちになって、うれしくなった。


「お世話になります」


なんと言ったらいいのかわからずにそう頭を下げると、なんだか不思議な気持ちになる。

翔梧さんの嫁として、初めてこんな挨拶をしたから。



< 352 / 372 >

この作品をシェア

pagetop