私を壊して そしてキスして

「少しも食べられないのか? 食べられるものは?」


リビングに戻ると、彼の食べかけのトーストが目に入る。
彼だって食事の途中だったんだ。


「フルーツなら少しは」


私がそういうと、自分の皿を差し出す。


「これも食えるか? 菜那のおかずと交換だ」

「はい」


無理に「食べろ」と言わない彼の優しさを感じる。

食べることが怖い。
そんな感情がこの世にあることを初めて知った。

目の前に出されたオレンジに手を伸ばすと、ゆっくりそれを口に運ぶ。


「待った」


口に入るほんの少し前に、彼がそう言いながら私の手首をつかんだ。


「少し、話をしよう」

「えっ?」


翔梧さんはそう言いながら、私の顔をじっと見つめた。



< 50 / 372 >

この作品をシェア

pagetop