私を壊して そしてキスして

「どうした?」


息苦しい。
たまらなく息苦しくて、言葉が少しも出てこない。


「香坂?」

どうしよう。
こんなところ、柳瀬さんに見せたくない――。

そう思ってギュッと目を閉じて下を向いたとき、零れてしまったんだ。
……一粒の、涙が。



次の瞬間、ふわっといい匂いに包まれる。
そっと目を開けると、目の前にはボルドーのネクタイ。


「なんで、泣くんだ。お前が幸せそうじゃないと、離したくなくなるだろうが」


その時、背中に回された手に力が入って、ギュッと強く抱き寄せられた。


「香坂、お前、ずっと寝てないだろ。どうしてだ? 本当に幸せなのか?」

「――どうして」


どうしてそれを?


「見てれば分かる。俺を誰だと思ってる?」



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