私を壊して そしてキスして
第2章
優しい嘘
彼と過ごす、穏やかな休日。
こんなに、気持ちを開放したのは久しぶりだ。
ずっと部屋に籠って、その片隅で震えていた私。
家族そろって摂ることの多かった朝食も、もはや私には針のむしろだった。
できるだけ早く食べ物を口に押し込んで、その席を立つことしか考えていなかった。
そして、そのあとはトイレに……。
だけど、もうそんな必要なんてない。
私は、一歩を踏み出すんだ。
「菜那の入れたコーヒーは美味い」
「えっ、同じ豆なのに?」
クスクス笑う翔梧さん。
仕事の時の鋭い眼差しとは違う彼は、とても優しい笑顔を見せる。
「菜那が、隣に居るからだな」
そんな甘い言葉を囁きながら、私の手を引っ張ってソファーに座らせる。
彼がこんな風に笑う人だと初めて気が付いた。