くだらない短編集
さようなら
飛び回るのは、悲しみだ。美しいあの人はもういない。伝えたい言の葉は気管に詰まってしまって、嗚呼、窒息してしまう。雨が肌に沁みていく。慟哭は胎内から産まれようとはしない。故に膿んでしまうのだ。
此処は何処か。聡明なあの人は、また、殺害されてしまったのだ。記憶の中で、何度も何度も。雨が、降る。傘は溝ネズミには似合わない。何万何億もの弾丸が灰色の空から降り注いでいる。
ただ、撃たれるのだ。透明ではなく、鉛色のそれに。それが使命であるかの如く。聡明なあの人を守りきれなかった自身を責めて。嗚呼、窒息してしまう。
■さようなら