くだらない短編集
憂鬱
「もしも、もしも私が死んだら、どうする」
女は愛らしい笑顔で言った。12月の空に、薄青が塗られている。都会の、高層ビルの何もない一室で二人は見つめ合っていた。窓も生活必需品も何もないこの部屋で、人間が、二人。
「死ぬよ」
男は言った。女は喜んで、優しく笑った。続けて、男はナイフをズボンから取り出した。
「試してみようか」と脈略無く男は言い、返事も待たずに女の首を、ナイフで裂いた。刃物が皮膚に食い込み、肉を切って、動脈を千切るのが、見える。数秒遅れて、思い出したかの様に血が吹き出した。人形みたいに、女の身体が崩れていく。
「あ、嘘だった」
死にたくは、ならないらしかった。
■憂鬱