くだらない短編集
愛のかたち
■愛のかたち
「ん、っぐ」
彼の美しい髪の毛を鷲掴んで、床に押し付ける。馬乗りになって貪るようなキスを落とせば、彼は涙を目に滲ませた。舌で歯列をなぞり、上顎を愛撫する。鼻から抜ける声が扇情的だ。丁寧に、優しく甘やかす。
ああ、なんと愛らしい。
堪えられずに、彼の舌に噛みつく。黒い瞳に恐怖が色濃く現れた。構うことなく、徐々に力を込めていく。そうして、ぷつり、と肉の裂ける音が聞こえた。血の味が口腔に広がる。彼が背を反らせ、体を大きく震わせた。絶頂を迎える女のようだ。頬を涙が伝う。
唇を離せば、ひゅ、と怯えて喉を鳴らした。
「かわいい」
私は右手を動かして、彼の喉に手を這わす。いやいやをするように首を横に振る彼を優しく慰める。
「やっ、やだ」
「大丈夫だよ、落ち着いて」
ポケットに忍ばせていたナイフを左手で取り出して、喉元に刃を当てる。絶望に染まった表情の彼はとても美しい。
「大丈夫だから」
つ、とナイフを滑らせる。白い喉に赤い線が走る。傷口から柔らかく美味しそうな、赤い赤い血が。