くだらない短編集
トマト



■トマト

真っ赤な塊を、投げつける。学校の教室内。生徒は呆然、沈黙の到来。少女は目立った生徒ではない。それなのに、突如として立ち上がった彼女はトマトを投げた。回転しながら、放物線を描いてトマトが宙を飛ぶ。真っ赤で新鮮な塊が教室の景色をその表面に映す。口を開いた男子生徒、未だ気付いていない人、外側に行くほど歪む机。
こつん、とトマトがある青年の背中に当たった。跳ね返されたそれは床板に落ちて、転がっていく。青年は振り向いた。何事か、と目を見開いている。その視線が捉えるのは、仁王立つ平凡な少女。

「知ってる?」

彼女は言った。

「トマトって、太陽の贈り物なの」

青年は一瞬だけ目を見開く。その後に、複雑な表情をみせた。笑いを堪えるような、泣き出すような、苦悶の、愉悦の、後悔のような。それを見て、優しく少女は微笑んだ。


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