くだらない短編集
だから可哀想なんていわないで




「滅び逝く日本と共になれ、僕は幸せですよ」

ソファーに座る2人。彼はそう言って、微笑んだ。この話は4Dテレビの奥にいるアナウンサーが「今の時代に生きる若者は可哀想ですね」と話を始めたところから始まる。時は2116年、日本のGDPは世界第45位まで落ち、その値は尚も降下中だ。国際結婚数の増加、同性結婚の容認、グローバル化によって日本に住む生粋の日本人は、最早2000万人程度だ。

日本、という単位は消え去りつつある。悲しきかな、それが現実だ。

私はフランスと日本のクオーターである。純粋な日本人ではない。背も高く、髪も茶色に近い。けれど、私の隣に座る彼は違う。日本人の血しか流れていないのだ。黒い瞳に、黒い髪、背はあまり高くなく、日本人特有の童顔だ。
彼は着物の着付けの先生をしている。故に、今日も着物に身を包んでいる。白の生地を基調とし、紅色の牡丹が右胸から裾まで艶やかに咲いている着物。女も嫉妬する程の蠱惑な雰囲気。

「日本は滅びるのかな」
「その前に人類かもしれないね」

はは、と笑う彼は天井を見上げた。自嘲気味に酸素を吐き出して、悲しみを吸い込む。

「日本なんて単位は、もう古いんだよ」
「それでもあなたは悲しいのに?」

ソファーに着物は似合わない。高層ビルには3Dの広告、宇宙には最大の図書館。あなたはこの世界に受け入れられない。だけれど、あなたは咲き続ける。凛と、真っ直ぐ太陽を求めて。

「精一杯、誇っているんだよ」


■だから可哀想なんていわないで



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