帰る場所[短編]
女の子の自宅に電話するっていうのは、男なら誰でも気が引ける。
やんわり拒否されたんじゃないか、と胸一杯の不安を抱えながらも、どうしても彼女を諦められなくて、ウジウジ悩んだあげく、3日後に電話した。
震えた声の俺とは対称的な美羽の、
「もう、電話してこないかと思ってたわ。」
と言う、あっけらかんとした声が今でも耳に残っている。
それから俺は毎晩彼女に電話をし、大学で会ったときは彼女から、「一緒にお昼食べようよ。」と誘ってくれるくらい近い関係になっていた。
そして、いつの間にか付き合うようになった。俺からも美羽からも特別な言葉はなかったけれど。
付き合ってから、なぜ美羽が自宅の番号を教えたか知った。
彼女の両親は亡くなっていて、自宅には彼女しかいないこと。
何より彼女は携帯でを持っていなかった。
「何だかいつでも誰かに縛られている気がして嫌なの。」
何で携帯を持たないの?と聞くと、彼女は決まって、遠くを見つめながら、ポツリとこう答えた。