帰る場所[短編]
美羽は、いつも、どこか儚げな雰囲気を身に纏っていた。
微かな風でさえ舞い上がって消えてしまう灰のように、気がついたら居なってるんじゃないか、というどうしようもない不安に、俺は時々襲われた。
そんな俺の不安に追い討ちをかけるように、美羽は、
「一生の中で、こんなに自由な時間があるのって今しかないと思うの。せっかくだから、日本中を旅行しようと思うの。」
と俺に電話をしてきたきり、美羽はパタリと大学に来なくなった。
卒業できるギリギリの単位しか取得しないことに決めたらしく、開いた時間のほとんどをアルバイトにあてているようだった。
美羽は会うたびに細くなっているようで、もともと白い肌は病的なほど青白くなっていた。
だけど、どんどん元気をなくしていく体とは反対に、美羽の表情は明るくなっていった。
「世界が広がってる気がする。」
「毎日がすごく楽しい。」
最初は心配していた俺もそんな彼女を見ていると、そういう生活があってるのかもなと思うようになっていった。