バイナリー・ハート
ケーキ作りは案外、腕力を使うのだ。
「ランシュがコツを覚えたら、メレンゲとか全卵のホイップとか頼んじゃおうかな」
「それって、力仕事だよね?」
「あ、バレちゃった?」
二人は顔を見合わせて笑った。
ガトーショコラが焼き上がった頃、ロイドから連絡が入った。
今日も帰りが遅くなるので、夕食はいらないという。
結衣はガトーショコラにチラリと視線を送る。
また食べてもらえないのかもしれない。
そう思うと、少し気持ちが沈んだ。
明日は店があるので、そんなに遅くまで起きてはいられない。
結局その夜、結衣が起きている内に、ロイドは帰ってこなかった。
翌日早朝、食卓の上に置かれたままの、手付かずのガトーショコラを見て、結衣は大きなため息をついた。