バイナリー・ハート
あの二人は、電話を切った後も、しばらく怒鳴り合っているような気がする。
「先生、早く帰れなくなったんだね」
隣に座っていたランシュが、心配そうに声をかけてきた。
「うん……」
元々結衣のわがままで、忙しいのに無理して、早く帰ろうとしていたのだ。
予定が狂う事はあらかじめ考えておくべきだったのに、朝から手放しで浮かれていた分、奈落の底にたたき落とされたように落胆は大きい。
初めて目にした、職場でのロイドと副局長の様子が、それに拍車をかける。
自分は何も出来ないのに、彼女は側にいて、常にロイドを支えている。
そこに恋愛感情がなくても、たまらなく彼女がうらやましい。
こみ上げてくる嫌な感情に胸が詰まりそうになり、必死に堪えていても涙が溢れてきた。