バイナリー・ハート


 水道の水が勢いよく流れる音を聞きながら、初めて気付いた事実に、結衣は再び呆然と立ち尽くす。

 ロイドは知らない——?

 先ほどの焦りようからして、ロイドはランシュがロボットだという事を知らないようだ。

 最初ランシュを紹介した時、ロイドはランシュが身を隠さなければならないと言った。
 その時理由は語らなかったけれど、結衣はランシュと接している内に気付いた。

 ランシュが違法なロボットだから、なのだと思った。

 ロイドが知らないのだとすると、身を隠す理由は別にある。
 それが何かは分からないけれど、科学技術局から身を隠しているのだろう。

 もしもロイドが知らないまま、ランシュが科学技術局に戻る事になったら、ランシュが違法なロボットである事を、科学技術局に知られてしまうかもしれない。

 そうなれば、違法な機械であるランシュの身体は、処分されてしまう恐れがある。

 ランシュの行く末を二人で話し合ってもらうには、 ランシュがロボットである事をロイドは知っている必要がある。

「ランシュはロボットだ」と直接言えれば楽だが、それはできない。

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