バイナリー・ハート
ランシュが二つの法を犯してまでも、このロボットに執着したのは、科学者としての純粋な探求心ではなく、ましてやロイドに対する反抗心でもない。
ただ単純に、命を長らえたかっただけ。
皮肉な事にロボットのランシュは、無表情でどこか冷めていた人間のランシュより、感情も豊かでよっぽど人間らしい。
ランシュがその才能を、存分に発揮する姿を見てみたいと思っていた。
それを彼の死後、こんな形で目にする事になろうとは——。
ロイドは力が抜けたように、床にひざをついて項垂れた。
目頭が熱くなり、メガネを外して手で覆う。
頭の上から、ランシュが静かに問いかけた。
「どうして泣くんですか? オレは生きているのに」
ロイドは力なく反論する。
「おまえは、ランシュじゃない……」
「オレはランシュです」
このロボットは数ヶ月間の記憶を、受け継いでいないと言った。
だから、知らない。
死に直面したランシュの、激しい恐怖と焦りを。
ランシュにそっくりなその顔で、幸せそうに微笑んだロボットが、哀れでならなかった。