バイナリー・ハート
満足そうに微笑んだ後、ランシュは遠くを見るような目で再び語り始めた。
「ずっと不思議でした。オレがどうして、この身体を作ったのか。この身体で目覚める前の最後の記憶は、あなたに免職を言い渡されて、絶望していた時のものです。あの時のオレは、何もかもやる気をなくして、生きる気力すら失っていました」
確かにそうだ。
免職後のランシュは、数日間食事も摂らず、部屋に閉じこもっていたと聞いた。
だが元々病弱だったランシュは、すぐに倒れたので、結局閉じこもりも長続きはしなかったらしい。
快復してからは、普通に生活するようになったと聞いている。
「一度は諦めようとしていた事を、どうして諦められなかったのか、今になって分かりました」
ランシュはこちらを、真っ直ぐ見つめて言った。
「オレは死ぬのが怖かったんです。もっと生きていたくて、この身体を作ったんです」