バイナリー・ハート
そして充分快復した頃、視界を塞がれたまま連れ出され、ベル=グラーヴに引き取られた。
ランシュはそのまま、二年間をベルと共に暮らす。
ベルはランシュを治療した者の知人だと言うだけで、詳しくは教えてくれなかった。
ベルが亡くなった後、その病院に連れ戻されるのを恐れたランシュは、家を逃げ出した。
そしてベルが生前よく通っていたお菓子屋に、救いを求めて訪れ、そこが偶然ロイドの家だったのだ。
だが成功したと思われる実験結果を、なぜすぐに公表しなかったのか。
それは違法と思われる技術を用いて行われた実験で、もしもランシュの容態が急変した場合、自分の身が危ないからだろう。
ベルに監視させていたところ、公表に踏み切る前に、ランシュが逃げ出したのだ。
「よくできたシナリオだろう?」
ランシュが世話になった故人に、片棒を担がせるのは申し訳ないが、死人に口なしだ。
ベルが追及されて、ボロが出る心配はない。