バイナリー・ハート

Setup(2)

 夕方、予定通り定時に職場を出たロイドは、買い物をして真っ直ぐ家に帰る。
 玄関を入ると、甘い香りと共にユイが出迎えた。


「おかえり」
「ただいま」


 結婚して、一番幸せを感じるのはこの瞬間だ。

 孤児のロイドは子供の頃から、家に帰って「ただいま」を言った事が数えるほどしかない。
 学校に通う頃から、育ての親である考古学者のブラーヌはクランベールに点在する遺跡を点々としていて、ほとんど家にいなかったからだ。

 家に帰った時、必ず出迎えてくれる人がいるというのは、とても幸せな事だと初めて知った。


「今出来たとこなの。あなたが好きなクレームブリュレよ」


 笑顔のユイが指し示すテーブルの上には、白くて丸い容器がズラリと並んでいた。
 表面のサクサクして焦げた砂糖の部分が、ロイドのお気に入りだ。
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