バイナリー・ハート
それでも懐かしそうに遠い目をするランシュの横顔には、人生の終わりを迎えた人が楽しかった過去を振り返っているような趣があった。
「最近は作ってないの?」
結衣が問いかけると、ランシュは視線を逸らし、再びひざをかかえて身体を縮めた。
「うん。科学技術局を辞めて二年以上、何も。おばあちゃんと一緒にいた頃は、色々家事を手伝ったりしてたから、あまりヒマもなかったのはあるけどね。局にいた頃は、明日命が尽きても後悔しないように、思い付いた事は今の内にやっておかなくちゃって必死になってた。やりたい事いっぱいあったはずなのに、一番やりたい事を途中で奪われて絶望してたはずなのに、おばあちゃんといると、そんな事すっかり忘れてたよ。おばあちゃんが亡くなって初めて分かった。オレが本当に一番やりたかった事」
ランシュは生まれた時からひとりだったと本人が言っていた。
どういう事情でそうなのかは知らない。
けれどベル=グラーヴとの生活は、彼が初めて感じた家族の温もりだったのだろう。
「最近は作ってないの?」
結衣が問いかけると、ランシュは視線を逸らし、再びひざをかかえて身体を縮めた。
「うん。科学技術局を辞めて二年以上、何も。おばあちゃんと一緒にいた頃は、色々家事を手伝ったりしてたから、あまりヒマもなかったのはあるけどね。局にいた頃は、明日命が尽きても後悔しないように、思い付いた事は今の内にやっておかなくちゃって必死になってた。やりたい事いっぱいあったはずなのに、一番やりたい事を途中で奪われて絶望してたはずなのに、おばあちゃんといると、そんな事すっかり忘れてたよ。おばあちゃんが亡くなって初めて分かった。オレが本当に一番やりたかった事」
ランシュは生まれた時からひとりだったと本人が言っていた。
どういう事情でそうなのかは知らない。
けれどベル=グラーヴとの生活は、彼が初めて感じた家族の温もりだったのだろう。