バイナリー・ハート
 結衣は何も言えず、ひざの上に置いた自分の手に視線を落とす。
 するとランシュが、


「ごめん、少しだけ……」


 そう言って、結衣に抱きついてきた。


「時々、怖くてたまらない。目が覚めたら全部夢で、オレはベッドの上で死にかけているんじゃないかって。身体を全部入れ替えて生き長らえたけど、今のオレの気持ち、オレの心は、本当にオレのものなのか分からなくなる。オレの心はどこにあるのか教えてよ、ユイ」


 縋るように抱きしめて肩の上で不安を吐露するランシュを、結衣は突き放す事ができなかった。

 二年前に入院中のランシュは動ける状態ではなかったと、ロイドの会話から漏れ聞いた。
 どんな重病だったのかは知らないが、きっと眠るたびに怖かったに違いない。

 何らかの方法で元気な身体を手に入れ、今、ランシュは生きている。
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