バイナリー・ハート
ランシュは身を隠さなければならない。
飲食店も多く軒を連ねる表通りは、科学技術局から職員たちが昼食に出てくる事もあるからだろう。
ランシュの案内してくれた店は、裏通りの民家の間にあった。
入口にプレートがぶら下げられているだけで、知らなければ見過ごしてしまうほど、周りの民家と同化している。
ランシュもベル=グラーヴに教わったらしい。
扉を開けて中に入ると、意外と明るい店内には、すでに数名の客が入っていた。
席について注文を終えると、結衣はランシュに尋ねた。
「他に何か欲しい物はない?」
ランシュは目を見張って両手を振る。
「いや、もう充分だよ。オレの給料そんなに高くないでしょ?」
「大丈夫よ。服は私のプレゼント。連れ出してくれたお礼よ。おかげで元気になったから」