大地主と大魔女の娘
カルヴィナを先に馬に乗せてから自分も乗る。
馬が揺れるたびに身体がどうしても傾く。
落馬されては大事(おおごと)だ。
そう考えたから何のためらいも無く、カルヴィナの腰に右腕を回した。
そうして抱えると一瞬驚いたように顔を上げ、見る間に悲壮感を漂わせられた。
苦々しい気持ちでその表情を見下ろせば、カルヴィナは不興を買ったと思ったのか、泣き出す手前か。
唇を引き結んでから俯いてしまう。
「はっ!」
構わず、短く声を掛け馬の腹を蹴った。
傾くたびに俺に寄りかかざるを得ない。
ますます身を固くして、必死でどうにか体勢を保とうとするのが解る。
その度に忌々しい気持ちになる。
娘を見ないように目指す先へと視線を向けるのだが、上手くは行かない。
馬が揺れるたびに、涙が飛び散るのだ。
おのれ夜露で俺を惑わす、忌々しい魔女の娘め―――。
等と悪態を心中で呟いてみても、それは何ら気まずさを紛らわしはしない。
ついつい彼女の様子を窺いながら馬を進める事となる。
そうなれば自然と、乗り手の視線がぶれる。それが乗馬を不安定にさせる。
当然、馬にも不安定さが伝わる。
乗馬に不慣れでぎこちが無いだけならまだしも、思い切り険悪な二人が乗っているとあれば流石の愛馬もぐずりだした。
首をいやいやと振りながら、こちらを窺うのだ。
愛馬にすら気を使わせてどうする。
そうも思うがどうしようもない。
少し歩を緩めて、ゆっくり慎重に進む事にする。
―――館が見える頃には、既に日も暮れていた。