大地主と大魔女の娘


 正門が見えた所で人影も見えた。


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「お帰りなさい!」

 いち早く、リディアンナの大きな声に迎えられた。

「姪のリディアンナだ」

 抱えていたカルヴィナに説明するように話し掛けると、小さく頷いたようだった。


「リディはおまえに会うのを楽しみに待っていた」

「え?」

 カルヴィナが驚いたように声を上げ、俺を見上げた。

 それは本当なのかと問いたげに見つめられる。

 もしくは何故、自分に会いたいのかと尋ねたそうにも見えた。

 どちらにせよ、少しだけ尻込みしているのが伝わる。

 恥ずかしさもあるのかもしれないし、スレンや姉の様子から何かを予想しての事かもしれない。


「ああ。リディアンナは優しい子だ。きっとおまえとも話が合う」

「リディアンナさま」


 安心させるように言ってやると、カルヴィナはその名を丁寧に呼ばわった。

 その声は近くでなければ、聞こえる大きさでは無かった。

 だが、リディには伝わったらしい。

 手を大きく振って、嬉しそうに笑顔を見せている。

 馬を近づけると腕組する姉から睨まれたが、無視してやり過ごし馬から下りた。

 すぐにカルヴィナも下ろしてやる。

 馬からは下ろしてやったが、地面には下ろしてやらない。

 そのまま再び彼女を抱き上げる。


「お帰りなさいませ、レオナル様」

「ああ。世話を掛けたな。馬を頼む」

 命じられるよりも早く、リヒャエルは既に馬の手綱を持っていた。

 そのまま軽く一礼して見せ、馬屋へと歩き出した。

 カルヴィナを抱え直し、駆け寄ってくるリディ達へと向った。

「一人で歩きます」

「杖が無いだろう」


 小さく抵抗したカルヴィナに、すかさずそう返す。

 そこでやっと、自分を支える杖がない事に気がついたらしい。

 慌てて辺りを見渡し始めたが、もう遅い。


 杖は渡し忘れたふりをして、他の荷と一緒のまま馬の背だ。

 馬は既にリヒャエルに預け済みだ。


 カルヴィナの困惑が伝わってくる。


「一人で……。」


 言い掛けて、カルヴィナは口を噤(つぐ)んだ。

 杖が無ければ、彼女は長くは立っていられないのだ。

 いくら口で「歩く」等と訴えても、それは虚勢にしかならないだろう。


「動かれると危ないから、ちゃんと摑まっていろ」

 そうたたみ掛ける。


 このまま大人しく運ばれているしかないと諦めたのか、おずおずと肩に手を置かれた。




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