大地主と大魔女の娘
正門が見えた所で人影も見えた。
・。:*:・。・:*:・。・:*:。・。:*:・。・
「お帰りなさい!」
いち早く、リディアンナの大きな声に迎えられた。
「姪のリディアンナだ」
抱えていたカルヴィナに説明するように話し掛けると、小さく頷いたようだった。
「リディはおまえに会うのを楽しみに待っていた」
「え?」
カルヴィナが驚いたように声を上げ、俺を見上げた。
それは本当なのかと問いたげに見つめられる。
もしくは何故、自分に会いたいのかと尋ねたそうにも見えた。
どちらにせよ、少しだけ尻込みしているのが伝わる。
恥ずかしさもあるのかもしれないし、スレンや姉の様子から何かを予想しての事かもしれない。
「ああ。リディアンナは優しい子だ。きっとおまえとも話が合う」
「リディアンナさま」
安心させるように言ってやると、カルヴィナはその名を丁寧に呼ばわった。
その声は近くでなければ、聞こえる大きさでは無かった。
だが、リディには伝わったらしい。
手を大きく振って、嬉しそうに笑顔を見せている。
馬を近づけると腕組する姉から睨まれたが、無視してやり過ごし馬から下りた。
すぐにカルヴィナも下ろしてやる。
馬からは下ろしてやったが、地面には下ろしてやらない。
そのまま再び彼女を抱き上げる。
「お帰りなさいませ、レオナル様」
「ああ。世話を掛けたな。馬を頼む」
命じられるよりも早く、リヒャエルは既に馬の手綱を持っていた。
そのまま軽く一礼して見せ、馬屋へと歩き出した。
カルヴィナを抱え直し、駆け寄ってくるリディ達へと向った。
「一人で歩きます」
「杖が無いだろう」
小さく抵抗したカルヴィナに、すかさずそう返す。
そこでやっと、自分を支える杖がない事に気がついたらしい。
慌てて辺りを見渡し始めたが、もう遅い。
杖は渡し忘れたふりをして、他の荷と一緒のまま馬の背だ。
馬は既にリヒャエルに預け済みだ。
カルヴィナの困惑が伝わってくる。
「一人で……。」
言い掛けて、カルヴィナは口を噤(つぐ)んだ。
杖が無ければ、彼女は長くは立っていられないのだ。
いくら口で「歩く」等と訴えても、それは虚勢にしかならないだろう。
「動かれると危ないから、ちゃんと摑まっていろ」
そうたたみ掛ける。
このまま大人しく運ばれているしかないと諦めたのか、おずおずと肩に手を置かれた。