大地主と大魔女の娘


 「やあ、やっとのお姫様の到着だ。待ちくたびれたよ」

 スレンがぼやく。

「おまえはまだ居たのか」

 ぼやき返しながら、スレンに背を見せるようにする。

「じゃあ、レオナルが王子? というよりもいかにも攫(さら)ってきましたという風情は拭いきれないわね」

「お母様ったら」

 嫌味を言いながらも、姉は安心した様子で笑みを浮べている。


「お帰りなさい、カルヴィナ」

「お帰りなさい、叔父様。はじめまして、カルヴィナ。リディアンナよ!」

「……ジルナ様。リディアンナ様。カルヴィナでございます」

 両方から両手を開いて囲まれ、カルヴィナは恐縮しきった様子で頭を下げた。

 その拍子にショールが滑り落ちてしまった。

 カルヴィナの両手は俺の肩にあるのだから当然だ。

「カルヴィナ、その髪っ!?」

 姉が悲鳴を上げた。そうして、その場でわっと泣き出した。

 リディアンナは再び母の取り乱した様子に慌てて宥めだす。



「お母様、どうなさったの?」

「ジルナ様。ええと、あの。申しわけありません」

 カルヴィナも姉の嘆きぶりに困惑している。

 まさかここまで泣かれるとは思いもしなかったろう。

 出来ていたら、切らずにいてくれただろうか。

 だが、何もかも遅かった。

 カルヴィナの髪は今や肩に届くか、届かないかといった辺りで揺れている。

「レオナル! 早くカルヴィナを部屋に案内しなさい! それから表に出なさい!」


 予想通りの展開だ。心構えはしていた。


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