大地主と大魔女の娘
地主と娘と月夜
「いくらだ?」
あの時、そう尋ねるのが精一杯だった。
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怒りとやりきれなさを押し込めて発した言葉に、店主は愛想笑いを浮べて見せた。
雑多な薄暗い店内で、その男が手にした黒髪だけに注目した。
「おお。旦那、お目が高い。珍しい黒髪ですからね。そうですね、特別に3万・ロートでいいですよ」
「3万・だな?」
「へぇ! 3万・ロートでも大分オマケしてますよ」
「そうか。ならば、本来ならどれほどの価値がある?」
「そうですね。5万いや、6万・ロートはくだらないかと見ますがね」
男が緊張した面持ちで右の手のひらを広げ、やや遠慮がちに左の指を一本付け足した。
「そうか。それほど価値が高いのだな」
「ええ! そりゃあもう! 見て下さいよ、この見事な艶と光沢。手触りも素晴らしくて、どう……!?」
男が言葉を最後まで続ける前に、素早く髪を奪い取っていた。
我が物顔で黒髪を梳く、その無骨な指先を切り落としてやりたい。
物騒な衝動に駆られる前にそうしていた。
あまり艶が無いからとカルヴィナには買い叩いておいて何を言うかと、腹が立って仕方が無かった。
「これはじきに公の場に出さねばならんのに、大切な髪をここで売ったのだというが間違いはないな? わずか5000・ロートばかりで」
かろうじて怒りに我を忘れずに済んだのは、カルヴィナを連れていたからだ。
女の前で暴力沙汰はしないと決めている。