大地主と大魔女の娘
「それでどうしたんだ?」
「え?」
ちろりとこちらを窺う男の目が、好奇心で輝いてるのを俺は見逃さなかった。
「あんたは怯えられてどうしたんだ」
「ああ、なんだ。それか。そんな事決まっている!」
もったいぶるようににやりと笑いを飲み込むように、酒を呷る男を見据えた。
「誠心誠意を込めて謝り倒した。おかげで彼女は俺の側にいてくれる。俺はがんばったのだ」
「そうか」
「で、今はアレだぜ。旦那をも怒鳴りつけるカカアになったよ。やっぱ、女は子供を持つと強く変わるのな」
「そうか。子供を持つと変わるのか」
「……ええと、旦那。突っ込み所はそこかい? あんなに泣虫でたおやかだった少女が、いまやあのカカアだぜ?」
「いいと思うが?」
「嬢ちゃん見てると懐かしいよ。ちょいと羨ましいな、旦那が」
「俺は互角に物を見て、言ってくれる方が羨ましい」
「そっか、そうだよな。旦那、がんばれ~!」
「何故だろう。ちっとも励まされている気がしない」
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酒場のマスターとも少し話した。他愛のない事だけ。
弁償する金額をはっきりさせ、交渉も済ませた。
そう深酒する事もなく港町を後にする。
夜の闇は深いが、見事な満月のおかげで足元は比較的明るい。
寝静まる気配の中、馬屋へ愛馬を戻した。
そのまま裏手へと回り、勝手口から戻ろうと考えた。
馬屋から自室へはそちらの方が近い。
回り込み、角を曲がった所で思わず声を上げた。
「カルヴィナ!?」